インターネット上で、例えばスーパーヨット、ラグジュアリーヨット、メガヨット等のキーワードを用いて検索すると、チャーターやブローカー情報の他に、世界のヨットビルダーの名前もヒットする。しかし「世界一のビルダー」と称した検索結果の多くが、製造されたヨットの最長記録に基づくのであって、実際のマーケット - 製造販売力 - を反映していないことに、一体どれほどの人が気付いているだろうか。ここでは、世界で最も注目され、売れているスーパーヨットビルダーについて、その根拠データも含めて見ていく。
本当に売れている、スーパーヨットビルダー世界ランキングを把握するには、イギリスの Boat International Media 社 から毎年発表される、24 m 以上のスーパーヨットの Global Oder Book を参照するのが効率的だ。
Boat International Media 社は、世界で最も権威あるスーパーヨット雑誌 Boat International を1983年から刊行するだけでなく、毎年、最優秀スーパーヨットの選考・審査を行い、World Superyacht Awards を授与する。さらに近年は、デザインとイノベーションに特化した、Boat International Design & Innovation Awards も企画している。有料マガジンの中でもかなり読み応えがあり、Boat Internationalはお薦めである。
さて、前述のデータ Global Oder Book に戻ろう。この世界ランキングは、各ビルダーで年間に製造販売されたスーパーヨットを数珠繋ぎにし、その総全長で決定されるため、”by length” と記載がある。下記は 2019 年および 2020 年ビルダー世界ランキングである。
- アジムット‐ベネッティ(イタリア)
- サンロレンツォ(イタリア)
- フェードシップ(オランダ)
- サンシーカー(イギリス)
- ルーセン(ドイツ)
- アメルス‐ダーメン(オランダ)
- アレクサンダーマリン(台湾)
- ヒーセンヨッツ(オランダ)
- ホライズン(台湾)
- オーヴァーマリン(イタリア)
- バリエット‐CCN(イタリア)
- ヘイシーヨッツ(中国)
- ビルンジヨッツ(トルコ)
- ターコイズヨッツ(トルコ)
- オーシャンコ(オランダ)
- ガルフクラフト(アラブ首長国連邦)
- カンティエレ・デレ・マルケ(イタリア)
- パルンボ(イタリア)
- アジムット‐ベネッティ(イタリア)
- フェレッティ(イタリア)
- サンロレンツォ(イタリア)
- プリンセスヨッツ(イギリス)
- フェードシップ(オランダ)
- アレクサンダーマリン(台湾)
- アメルス‐ダーメン(オランダ)
- サンシーカー(イギリス)
- ルーセン(ドイツ)
- ヒーセンヨッツ(オランダ)
- ホライズン(台湾)
- オーシャンコ(オランダ)
- オーヴァーマリン(イタリア)
- パルンボ(イタリア)
- バリエット‐CCN
- ヘイシーヨッツ(中国)
- ザ・イタリアン・シー・グループ(イタリア)
- ヴァイキング(アメリカ合衆国)
- カンティエレ・デレ・マルケ(イタリア)
- ガルフクラフト(アラブ首長国連邦)
まず当然のことながら、日本で展開するマーケットは、日本人の嗜好とライフスタイル、さらにディーラー達の戦略に応じた、独自のものである。そのため、このランキング結果が日本でよく耳にするビルダー名と、必ずしも一致するわけではない。しかし明らかに2020年ランキングから、フェレッティ、パーシング、リーヴァ、カスタム・ライン、CRN等のブランドを擁するフェレッティ・グループ、そしてプリンセスが消えたことに、大きな違和感を感じるであろう。これは Boat International Media 社が同調査で言及 するように、両ビルダーの2019年データを詳細に検証できなかったことに起因する。決して、フェレッティやプリンセスの販売業績が悪かったためではない。
上述の、ここ2年間の製造販売力に応じたビルダー世界ランキングで、1位に輝くアジムット‐ベネッティは実は、この Global Oder Book の集計において、20年以上も1位を保持するまさに「真の世界No.1ビルダー」なのだ。そして毎年、相当数のイタリアのビルダーがランクインしていることからも、どれほどイタリアがスーパーヨット界を牽引しているか、が立証されている。
ところで Boat International Media 社は、ほかにも興味深いデータを公開している。次のデータは2020年発表の総トン数に基づくビルダーの国別ランキングである。
前述2020年の全長に基づくビルダー世界ランキングにおいて、18位以内に6社ランクインしているイタリアが、合計総トン数でも1位を占めるのは納得できるが、面白いのは、国別の平均総トン数 “Average GT” の比較から見えてくる実態だ。
なぜ、全長に基づくビルダー世界ランキング18位圏内に1社しかランクインしていないドイツ、あるいは皆無のノルウェーが、合計総トン数の中でトップ5に入るのか?(しかも、ドイツはオランダも抜いて2位…)
平均総トン数 8,313 t のノルウェー、5,365 t のドイツ、1,167 t のオランダは、スーパーヨットの製造数自体は少なくても、250フィート(76 m)以上、さらに100 m を超える巨大なジガヨットを中心にマーケティングを展開しているためだ。
なぜ、平均総トン数では最も低い数値を示すイタリアが、合計総トン数の国別ランキングで1位になるのか?
年間製造数において、他国は2桁どまり。一方イタリアは、ジガヨットよりもやや小さい、500 t 未満の免許で操船できるメガヨットの製造を主流とし、398隻と唯一3桁という製造数の多さに支えられているからだ。
基本的に世界ランキングに登場する諸国は、戦前から軍艦や商船を製造しており、歴史的に造船ノウハウを保持する。それが新たな時代潮流により、スーパーヨットへ移行する際、ドイツ等、大西洋に面した北西ヨーロッパ諸国は、早期からジガヨットに照準を定めた。ジガヨットなら長距離航行も可能だ。つまり、常夏の気候を求めて地中海や大西洋を横断し、カリブでヴァカンスを楽しんだり、時には冒険心が赴くまま北極圏へ航路を進めることができる。その方向でマーケティングを拡充した。
一方地中海沿岸の諸国は、メガヨットを主軸に、より多くのセレブリティが沿岸都市や島々を周遊できるよう、個性的、優美なデザインと居住性を追求した。ハリウッド映画に頻繁に登場し、居並ぶ各国のスーパーヨットの中でもイタリアのデザインが群を抜いて優れているのは、これで納得いただけるであろう。もちろん、ドイツ、オランダ、そして近年台頭するトルコのビルダーによる、最優秀デザイン受賞のスーパーヨットも増えている。しかしよくプロジェクト内容を見ると、実はイタリア人デザイナーが協働しているケースが多いのだ。
今後も世界で人気のイタリアのスーパーヨットビルダー、デザイナーから目が離せない。