一般的なブローカーが販売促進を主眼とする姿勢とは一線を画し、本稿では筆者自ら艇体を確認し、構造・艤装・居住性、さらには実海域での動静に至るまで丹念に検分したうえで推挙する“厳選の中古艇情報”をお届けする。
今回は、1970年代後半にオランダで建造された全長20m級のクラシックモーターヨットを取り上げる。建造から約50年を経た今なお端正なシルエットを保ち、適切な整備履歴によって極上のコンディションを維持する一艇である。

まず何より、本艇がまとったクラシックならではの気品が心を捉える。船首から船尾へと伸びる船体のやわらかな“ひとつながりの曲線”は、時代を超えて受け継がれてきた職人の美意識を感じさせる。今日主流となったFRP素材以前に丁寧に仕上げられた木部のトリムや、控えめながら均整の取れたブリッジの造形は、熟練した職人技が光る部分であり、その佇まいをいっそう引き立てている。半世紀という年月がもたらした落ち着きは、乗る者にやさしい安堵と静かな高揚を与えてくれる。

FRP以前の木部トリムは職人技の粋。手入れで生き続け、クラシックならではの温かみと品格を漂わせる。
しかし、このクラシカルな外観とは裏腹に、艤装や運用系統は現代仕様へしっかりと更新されている。航海計器は視認性に優れた最新モデルへ統一され、電装・エンジン周りも要所が計画的にリフレッシュされてきた。“古い艇の扱いづらさ”を感じさせる部分は驚くほど少ない。
具体例を挙げると、窓枠はオリジナルではアルミ製であったが、すべて塩害に強いステンレス鋼に交換されている。操舵室の窓ガラスも破損防止仕様に更新済みである。また、鉄製のマストはカーボンファイバー製とし重心を低く保ったうえで、船首にバルブを構築することで、より安定した航行性能を確保している。
こうしたクラシカルなコンセプトを尊重しつつ現代仕様にアップデートできた背景には、12年間にわたり同じオーナーと専属クルーが、一貫して手入れを続けてきたという事実がある。木部のバーニッシュ塗り直し、船底塗装、外板補修、機関の消耗品交換など、クラシック艇を美しく保つための手入れは、季節ごとに丹念に施されてきた。整えられたメンテナンス記録は、その丁寧な維持管理を明確に物語っている。

職人技と手入れが息づくクラシック艇。美しさと安定性能を兼ね備える極上の一艇。
さらに、本艇は離島での錨泊を想定した実用性を備えている。テンダーボートは通常よりも長い距離を移動できるミリタリー仕様で、母船を静かな入り江に留めたまま、周囲の湾奥や無人浜へ自在に行き来できる。クラシック艇ならではのゆったりとした時間を味わいながら、クルージングの自由度が大きく広がる点は、本艇の隠れた魅力である。

沖縄の離島群、瀬戸内の静かな湾奥、さらには小笠原諸島まで、多彩な海景を心ゆくまで巡ることができるだろう。
これまでのオーナーは本艇で、イタリアを起点に東はトルコ、西はジブラルタルまで広域にわたりヴァカンスを楽しまれた。日本の海域でも、南は沖縄の離島群から北は瀬戸内、さらに東京都の伊豆諸島や小笠原諸島まで、多彩な海景を存分に巡ることができるだろう。クラシック艇ならではの優雅な時間と、自由な航行の楽しみが、日本の海でも存分に味わえる一艇である。

《Yukyより一言》
私自身がリフィットを担当した訳ではありませんが、同じ現場にいたため、冬場にクルーやどの業者が出入りし、しっかり整備されてきたかを見聞きしています。さらに乗船し、船内での泊まりも体験させていただいたことで、居住性も十分に確認しました。その上で、自信を持ってお勧めいたします。