手頃なFRP製 25~35mの次に考えるのは、40〜50m 台で、カスタマイズのスーパーヨットです。
とあるビジネスランチでの談話。「ハイスピードを追求すると、居住性がどうしても犠牲になるのは仕方ないかぁ」と呟くキャプテン。しかし同席した船舶エンジニアは「いや、そうでもないですよ。例えば…」と、自社ベネッティ建造のメガヨットで、メインサロンのごく限られたエリアで感じられた微小振動の解消秘話を、具体的な業者名も挙げながら、イタリア人らしくユーモアを交えて解説した。続いて、他のビルダーではどのモデルが優れているかも、自社営業の域を越え、実に親身に、エンジニアリングの視点で、キャプテンにアドバイスをした。
このビジネスランチは、マリーナ係留中の某イタリアンビルダーの GRP製 32m、キャプテンが管理するスーパーヨットにて行われた。エンジニアは、キャプテンの奥方の絶品ジェノヴェーゼパスタを褒めながら、「あれ、今ジェネレーター作動中ですか?それとも洗濯機かな?」と元検査官の研ぎ澄まされた感覚で、船のコンディションに敏感に反応した。同じ食卓を囲む者で、その微細な振動に気付いたのは彼だけだった。
現在キャプテンは東欧出身のオーナーに代わり、次の買換えモデルとして40~50mのカスタマイズスーパーヨットを品定めしているところだ。残念ながらコロナ禍で、「メガ」サイズが展示されるモナコやカンヌなどの代表的なボートショーは中止となり、無論試乗を体感できる状況ではない。そこでキャプテンは精力的にビルダーを訪問し、ある程度まで各社のモデルを絞り込んだ。それら候補名を耳にした瞬間、筆者の胸が高鳴る。本記事で紹介するモデルが、キャプテンのお眼鏡に適う有力候補の1つに入っていたのだ。以前から「デザインとスピードを好む日本のユーザーに適したモデル」と確信し資料を収集していただけに、彼らの会話に後押しされる形で、本モデルの執筆に、つい熱がこもってしまう。
主なテクニカルデータ
ビルダー: | オーヴァーマリン社(イタリア) |
ブランド: | マングスタ |
モデル: | GranSport 45 |
全長: | 45.3m(148.7ft) |
全幅: | 8.6m(28.2ft) |
喫水: | 2.1m |
構造: | アルミハル、アルミ上部構造 |
スピード: | 最大26kt(クルージング20kt) |
収容人数: | ゲスト12名(5室)、クルー7名(4室) |
オーヴァーマリン社は1985年に設立し、中部イタリアに位置するトスカーナ州沿岸部、ティレニア海に面したピサ、ヴィアレッジョ、マッサ付近を製造拠点とする。創業から一貫してバルドゥッチ家による同族企業であり、製造販売力に応じたビルダー世界ランキングにて、トップ20の常連だ。
近年の市場傾向を受けて、40~60mのメガヨットを中心に、「マングスタ」ブランドとして、Oceano(オチェアノ)、GranSport(グランスポーツ)、MaxiOpen(マキシオープン)の3つのモデルラインを展開する。
どのモデルも魅力的だが「世界が認める」となれば、受賞歴が集中した Oceano とGranSport であろう。前者 Oceano は全長に応じ、サンドイッチ構造の複合材、あるいはスチールハル+アルミ上部構造で製造され、ゆったりとしたクルージングに適している。一方 GranSport はハイスピードも付加し、サンドイッチ構造の複合材、もしくは全てアルミニウム製だ。そして両者に共通するビルダーの信念は、
徹底した空間利用、
優れた居住性、
イノベーション技術を採用した効率的な航行を追求する。
長距離航行が当たり前となる昨今、スーパーヨットを沖合に停泊させて、自由気ままにテンダーボートやジェットスキーで楽しめるよう、船体後方に様々な遊び道具を積載できる、いわば Explorer(エクスプロ―ラー)タイプの人気も高まっている。しかしオーヴァーマリン社では、遊び道具を船首に効率よく収納することで、船尾に広いビーチクラブを確保し、そのデザイン性と開放自由度を極めた。
GranSport ラインでは、54mが2018年9月カンヌでお披露目されると、たちまち世界の注目を集めることになり、そのままカンヌで、50~82m級モーターヨットにおける「エクステリアデザイン最優秀賞」を受賞した。その勢いは止まらず、翌2019年2月には総トン数300~499トンのモーターヨットのカテゴリーで「インテリアデザイン最優秀賞」、さらに同年5月には、40m以上の「パワーヨット最優秀賞」をも獲得した。
受賞ラッシュモデルとなった GranSport 54のノウハウを生かして製造された GranSport 45は、翌2019年にカンヌで公開されると、驚くことにサイズ違いでも54mと同様に「エクステリアデザイン最優秀賞」受賞という快挙を成し遂げた。
GranSport 54は船名 El Leon 、45mは MAで検索すると、各国のスーパーヨット雑誌に掲載された記事や写真がヒットする。しかしあくまで「一例として」ご覧頂きたい。なぜなら マングスタGranSport は、オールカスタマイズのため、このような配置やデザインを踏襲せずに、自由に好みのアレンジができるからだ。
ところで、なぜブランド名が「マングスタ」なのか…?
オーヴァーマリン社が創業間もない頃、ヴィアレッジョのライバルビルダーが「コブラ」を製造していた。それに打ち勝つブランドとして、マングスタ(マングース)を選んだのが真相と、オーヴァーマリン社は語る。そしてそのライバルビルダーはというと、その後不況で倒産してしまい、最後はマングスタが勝ち残ったのだった。
マングスタとは、強豪を制し、俊敏さと優美さを兼ね備えたスーパーヨットに実にふさわしい名である。
2020年現在、日本にオーヴァーマリン社の正規代理店、および販売店はまだ存在しません。本船に関するご相談やビルダー訪問をご希望の場合は、こちらへご連絡をお願いいたします。