ASAHIからSAGASUまで──スーパーヨットに宿る日本的美意識

スーパーヨットの船名学|Superyacht Nameology#3
― 名は体を表す。海の上の美意識と規範 ―

近年、国際的なスーパーヨット市場で注目されるのが「日本語船名」です。日本語の船名は、響きや意味だけでなく、内装や哲学と一体化しており、オーナーの思想や美学を象徴しています。

モナコ・ヨットショーをはじめ、国際的な展示会で公開された代表例を見てみましょう。

ASAHIあさひ)56m セーリングヨット2009年 イタリア・ペリーニ建造)

  • 命名由来: 「新しい日の始まり・希望」の象徴として「朝日」から。
  • 内装の特徴: 和紙風の壁面や竹装飾など、日本的ミニマリズムを採用。
  • 市場戦略: Perini Navi 社が得意とする帆走技術と職人美を軸に、環境意識と静的贅沢を求める層へ訴求。欧州伝統の帆船文化を、アジア富裕層にも広げる戦略モデル。

BIJIN(美人)50m モーターヨット2015年 オランダ・ヒーセン建造)

  • 命名由来: 「美しい人」を意味し、オーナーの美的感覚を象徴。
  • 内装の特徴: 漆や障子風照明を取り入れ、和の繊細さと現代的ラグジュアリーを融合。
  • 市場戦略: Heesen 社の高性能艇に東洋美のデザイン性を加えた提案。審美眼の高い欧州・アジアの富裕層を対象に、「動く芸術品」としてブランドの多様性を示す。

Kenshō(見性)75m モーターヨット2022年 ザ・イタリアン・ー・グループ建造)

  • 命名由来: 「自己を見つめる」という禅の思想を象徴。
  • 内装の特徴: 自然素材と柔らかな照明を用い、静寂と内省を誘う空間構成。
  • 市場戦略: The Italian Sea Group の旗艦モデルとして2022年に納入。さらにYACHTZOO Japan と提携し、2025年ジャパン・インターナショナル・ボートショーに出展するなど、日本市場への展開を強化。精神的豊かさを重視するアジア富裕層に“内面を満たすラグジュアリー”を提案。

SAGASU(探す)48m “コンセプト”モーターヨット(Hydro Tec)

  • 命名由来: 「未知を探し、発見する」という探求の精神を表現。船のタイプが、エクスプローラー船であることにも関連。
  • 内装の特徴: 大開口窓と直線的なデザインで、静と動の美を融合。
  • 市場戦略: Hydro Tec が香港拠点と協業し、新興アジア市場を見据えたエクスプローラー艇として構想。500 GT未満で高機能を実現し、文化と冒険を両立する次世代オーナーを狙う。

SAGASU は、香港拠点のエージェントとイタリアの設計事務所が協働しているにもかかわらず、日本語のモデル名を採用しており、国際チームが「日本的美意識」を価値として認める象徴的な事例といえる。

「なぜ日本人ではないのに日本語?」という驚きが、むしろ国際市場での日本的価値の強さを示す表れ

世界のスーパーヨット市場は、アジアを新たな成長軸に据え、文化的深みを持つデザイン言語として日本的美意識への関心を高めている。さらに高市政権下で日本が ASEAN 諸国や欧米諸国との連携を進める中、今後日本人デザイナーや職人が国際プロジェクトに関わる機会も期待される


«編集後記»

SAGASU20241月に発表される以前、雑誌「BARCHE20229月号では、50 mクラスのコンセプトヨット「MUGEN」が紹介されている。日本人建築家とイタリア人エンジニアによるコラボレーションで実現した「MUGENネーミングのみならず、内装にも中世以来の日本文化を反映したデザインが施されており、船体デザインと内装の双方に日本的美意識を巧みに融合させた事例として、国際的な注目を集めている。


スーパーヨットの船名学|Superyacht Nameology ― 名は体を表す。海の上の美意識と規範 ― 本シリーズの記事へ以下からアクセスできます。

  • ♯1スーパーヨットの名前にはルールがある? 船名の国際規則と表示場所
  • ♯2美しさと安全性を両立!スーパーヨットの船名デザイン
  • ♯4船名の自由と制約―スーパーヨットにおける注意点
  • ♯5世界の富裕層が選ぶこだわり船名一覧
Yuky

イタリアのスーパーヨットビルダー勤務。培った知識や情報をアウトプットすることで、誰かを幸せにできるという信念の下、当サイトで執筆中。

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