スーパーヨットの船名学|Superyacht Nameology|#2 ― 名は体を表す。海の上の美意識と規範 ―
スーパーヨットの船名は、単に目立てばよいというものではありません。船体の美観を損なうことなく、かつ航行中の視認性を確保することが求められます。基本的には船尾中央に表示されますが、船尾のデザインや形状によって左右に偏置されることもあります。
重要なのは、船名が常に視認可能であること
船首や船尾が大きく開閉するフェリーでは、多数の車両と乗客を運ぶ構造上、安全性が最優先されます。そのため、ハッチが開いても船名が隠れないよう、開閉部の上方に船名が表示されるのが一般的です。
スーパーヨットでは、船尾ハッチ中央に船名を表示するのが主流です。けれども、近年よく見られる、船尾ハッチが下方に開閉しビーチクラブを形成するモデルは、一時的に船名が隠れてしまいます。本来であれば、緊急時や航行上の視認性を考慮し、隠れない位置への表示が望ましいですが、デザイン優先の配置も暗黙の了解として許容されています。オーナーやビルダーの美意識と安全性の絶妙なバランスがあるのです。
両舷への表示も国際規則により義務付けられており、日本で一般的に見られるのは、船首付近の両舷に船名を配置する形式です。
一方スーパーヨットでは、船首のカーブやデッキ構造によって前方では視認性が低くなるため、中央部分に表示することで美観とブランド性を両立させています。夜間はバックライト付きサインで船名を照らし、暗闇でも識別可能とする工夫がなされています。
スーパーヨットの船名は、デザイン優先でありながら視認性を損なわない工夫が随所に施されています。小さな文字一つにまで、オーナー/ビルダーの美意識と航行安全性の高度なバランスが反映されているのです。
スーパーヨットの船名学|Superyacht Nameology ― 名は体を表す。海の上の美意識と規範 ― 本シリーズの記事へ以下からアクセスできます。
- ♯1|スーパーヨットの名前にはルールがある? 船名の国際規則と表示場所
- ♯3|ASAHIからSAGASUまで──スーパーヨットに宿る日本的美意識
- ♯4|船名の自由と制約―スーパーヨットにおける注意点
- ♯5|世界の富裕層が選ぶこだわり船名一覧